現代版養生訓

2021年の現代版養生訓

1月

市立病院 乳腺内分泌外科 千野 辰徳 医師

他人事じゃない乳がん

先日、がんと診断さた人が10年後に生存している割合は、58・3%との報道がありました。この割合は年々増加しており、特に前立腺がんや乳がんはそれぞれ98・8%、86 ・8%とかなり高い割合です。一方で膵臓がんのように6・2%しかないものもあります。同じがんといっても種類によりこれほど違います。そう考えると、乳がんはそれほど恐れる必要のないがんと言えるかもしれません。

しかし、その乳がんでさえ進行した状態では、10年後に生存している割合は19・2%しかありません。つまり、早期発見できるかどうかが重要になります。では、どうしたらいいのでしょうか。
まずは自己検診です。乳がんは、早期発見して治療すれば完全に治せる可能性があります。しかも、自分で見つけることができる数少ないがんの一つです。月に1回でいいので、体を洗う際や入浴後に鏡の前で触ってチェックしてみてください。硬いしこりがある、乳房の形に変化がある、乳頭から分泌物が出ている、これらの症状ににもし心当たりがあれば、すぐに相談をしてください。
次に大事なのは乳がん検診です。乳がんは、女性がかかるがんの中で最も多いがんです。食生活の欧米化や妊娠・出産の減少の影響で年々増加傾向にあり、50年前は女性の50人に1人が乳がんになると言われていましたが、現在は9人に1人となりました。年代別で見ると、30歳代から徐々に増え始め、40歳代後半をピークに60歳代まで多い傾向があります。そこで40歳以上の方は少なくとも2年に1回は乳がん検診を受けましょう。前回と比較する事でわずかな変化に気付けます。今日から自己検診、今年から乳がん検診を受診しましょう。

 

2月

市立病院 心臓血管外科 髙橋 耕平 医師

おなかのドキドキにご用心大動脈瘤とその治療のお話

皆さんは「大動脈」という言葉を聞いたことはありますか?「日本の大動脈」などはよく使われる言い回しですが、日常生活の中では本物の大動脈を意識するようなことはほとんどないかもしれません。 
大動脈とは、心臓から体中に血液を送る文字通り「大きな動脈」です。心臓から出て胸やおなかまで通っており、太さは心臓から出てすぐの場所では3センチメートル近くもあります。
一分間に3〜5リットルもの血液を送っており、ここには血圧がかかっているため、穴が開いてしまうと天井まで血液が吹き上がります。当然破れたりすれば命に関わる大ごとです。この大動脈が動脈硬化などが原因で膨らんでしまう病気を「大動脈瘤」と言います。高齢の方に多い病気で、自覚症状がほとんどなく進行するため、人間ドックやほかの科の検査で偶然見つかる方が多いです。声がしゃがれたり、おなかのドキドキする塊に気付かれたりして来院する方もいらっしゃいます。
大きくなると破裂の危険が高まってきます。できた場所、形にもよりますが5〜6センチメートルを超えてくると1年間に破裂する確率が約7%と言われています。これくらいになると治療を考慮します。
治療は薬がないため、手術を行います。胸やおなかを開けて人工血管に取り換える従来の開胸開腹手術か、当院でも平成29年に導入した負担の少ないステントグラフト治療を選択することになります。どちらの治療を選ぶかは詳細な検査と、治療の利点、欠点を理解していただき、よく相談することが必要です。大動脈に関する心配事がある方は心臓血管外科医にご相談ください。

 

3月

市立病院 整形外科 畑中 大介 医師

膝の健康寿命を延ばすために

世界トップレベルの長寿を誇る日本人ですが、寿命と健康でいられる期間の差が大きいという事実もよく取り上げられます。関節もできるだけ健康に長く保ちたいもので、今回は膝の健康寿命を延ばすためのお話です。
「足腰が昔と違う…」と感じ始める人が出てくるのは50代くらいからでしょうか。年齢が進むにつれ、徐々に症状が増すものや、60歳前後で半月板という膝のクッションが突然傷んでしま
い、急に痛みを生じることもあります。膝の痛みに対しては患者様も医療機関もついつい薬に頼りがちですが、実は慢性期の痛みの緩和や関節機能を長持ちさせるとても大事な要素に筋力強化運動と体重コントロールがあります。これには「ローマは一日にしてならず」というように、持続的な努力が必要です。

しかし、日々の努力の積み重ねで改善することもあれば、日々の負担の積み重ねで悪化することもあります。筋力が弱まり運動パターンが特定の関節部位に集中すると関節症の進行や痛みが悪化し、過体重は足腰に持続的な負担をもたらします。逆に筋力強化で特定の部位にかかる負担を減らし、体重の適正化で痛みが和らぐことが期待できます。まずはこういった意識付けにより膝の健康寿命延長を目指しましょう。
それでもつらい痛みには、手術という最終手段があります。個々の患者様の年齢や状況にもよりますが、最近は生まれ持った膝の機能をなるべく生かし、膝関節の体重のかかる面を変化させて痛みを緩和する「骨切り術」という手術方法も見直されつつあります。この手術は進行した膝関節症に対して安定した成績を持つ有名な手術方法です。まずはご相談ください。

 

4月

市立病院 形成外科 重吉 佑亮 医師

イヌ、ネコ、ヒトにかまれたら

動物の口の中には雑菌が多く存在しています。動物にかまれた傷は入り口が狭く、奥が深くなる傾向があります。そのため、雑菌が傷口から排出されにくく、感染して化膿することもまれではありません。ネコは牙が細いため、イヌにかまれた傷より感染の危険が大きく、重症化しやすいと言われています。また、ヒトの歯による傷(ケンカ、性行為など)も感染の危険が大きいので注意が必要です。

一方で、狂犬病は予防接種が浸透しており、1956年以降、国内発生はなく、国内では発生事例はありません。動物にかまれたら、まず水道水で傷口をよく洗ってください。その後、速やかに医療機関を受診してください。傷の奥深いところまで十分に洗浄します。膿が溜らないように傷口を切開することもあります。かまれてから数時間以内に十分に洗浄されれば、感染の危険性はかなり減少します。加えて、破傷風の予防注射を行い、数日間抗生剤を内服します。基本的に傷口は縫合せず、軟膏を塗って傷が閉じるのを待ちます。傷跡が気になる際は、数カ月後に傷をきれいにする手術などを検討します。
また、動物にかまれた後に傷口の周囲が赤く腫れる、痛みが強くなる、熱っぽくなる、膿が出るなどの症状が出てきた場合は、傷が化膿している可能性が高いので、速やかに医療機関を受診してください。傷口を切り開き、膿を出すなどの処置が必要となることがあります。感染が広範囲に及ぶ場合は、時に入院が必要です。
ご家庭でイヌやネコなどの動物を飼っている方も多いかと思います。もし、動物にかまれた場合は、速やかに医療機関を受診してください。

 

5月

市立病院 新生児科 嶋田 和浩 医師

寝る子は体も頭も育つ

二度寝の誘惑に日々負けそうな季節となりました。皆さんはスッキリとした朝をお迎えでしょうか。今回は人生の1/3を占める「睡眠」の話題です。
子どもにも大人にも不可欠な睡眠ですが、子どもの睡眠時間は長く、質も量も体と脳の成長に影響します。夜の深い眠りの段階で成長ホルモンの分泌が増えるのはよく知られていますが、記憶の定着にも深い眠りが重要で、平日の睡眠時間が短い子どもは記憶に関連する海馬が小さい傾向があります。3〜5歳くらいまでは昼寝も有効な睡眠時間ですが、徐々に夜の睡眠の方が重要になります。
米国の推奨睡眠時間は小学生が9〜11時間、中高生が8〜10時間です。ところが、日本のとある地方の調査では、小学生が9時間弱、中学生が7時間、高校生が6時間と、いずれも不足していました。また、22時以降まで起きている小学生に成績上位者はいなかった、という報告もあります。もし、授業中に居眠りする小学生がいたならまず睡眠不足です。とはいえ、ダラダラ寝て
いても私のように横に成長するだけですので、日中の活動と夜の熟睡というメリハリが大切です。

ヒトの体内時計は24時間より若干長い周期のため、夜更かしは簡単で早寝は難しいわけです。朝日を浴びることで体内時計はリセットされますが、液晶やスマホなどの画面の光には朝日と似た性質があり、目がさえるため寝る前には控えましょう。しかしながら、子どもの睡眠時間に最も影響するのは家族の生活時間です。「早く寝なさい」と子どもにばかり言いがちですが、私も含め大人も規則正しい生活を送ることが大切です。自分の生活を変えることは難しいと思いますが、心掛けてみてください。

 

6月

市立病院 泌尿器科 中藤 亮 医師

夜間頻尿

泌尿器科の患者さんが訴える症状の中で多いものの1つが「夜間頻尿」です。夜間頻尿の原因として、多尿、夜間多尿、膀胱容量の減少、睡眠障害が挙げられます。

多尿とは、1日の尿量が体重1㎏当たり40㎖以上( 50㎏の方なら2000㎖以上)と定義され、飲み物の過剰摂取などが原因です。糖尿病でも尿に糖が出ていると多尿になることがあります。
夜間多尿とは、夜間の尿量が1日尿量の3分の1以上になることで、水分の過剰摂取(特に夕方以降)や高血圧、睡眠時無呼吸症候群などが原因です。膀胱容量の減少は、加齢の影響や前立腺肥大症、過活動膀胱といった泌尿器科の病気が原因です。泌尿器科疾患がある場合は、排尿の勢いの低下や残尿感、尿失禁などを伴うことが多いです。
夜間頻尿を含めた排尿症状の改善のために、過剰な水分摂取(特にアルコール、コーヒー・お茶などのカフェインを多く含む飲み物の摂取)を避けること、適度な運動や入浴、便秘の改善、肥満の場合は減量などが推奨されています。
高血圧や糖尿病など内科的な疾患や睡眠障害がある場合は、それらに対しての治療が有効となることがあります。夜間頻尿以外にも排尿症状を伴う場合は、泌尿器科疾患の有無を確認します。
尿検査、前立腺がんの血液検査(PSA検査)、超音波検査などを行います。お近くの泌尿器科やかかりつけの医療機関でご相談ください。