現代版養生訓

2020年の現代版養生訓

1月

市立病院 歯科口腔外科 久保紀莉子 医師

歯周病と糖尿病

歯周病は、食生活や喫煙などと密接な関わりのある歯科口腔領域の代表的な生活習慣病です。原因となる歯周病原菌の感染により、歯茎の腫れや出血を生じ、重度になると歯を支えている骨を溶かして歯を動揺させ、さらに脱落させてしまう炎症性疾患です。近年、この歯周病と糖尿病が密接に関連していることが明らかになってきました。そのメカニズムとして、歯周病原菌から出される内毒素が、歯茎から血管内へ入り込み、体の中で作用することで、血糖値を下げる働きを持つホルモンであるインスリンを作りにくくする(インスリン抵抗性)ことが分かっています。

また、慢性炎症である歯周炎が存在することにより、血糖値は上昇し、糖尿病のコントロールをますます困難にし、同時に歯周炎も進行していくという悪循環に陥ります。しかし言い換えれば、歯周炎の治療を適切に行うことで、糖尿病の症状をより容易に改善させることができる可能性があります。歯周病は、歯と歯茎の間の歯周ポケットの深さを測るほか、レントゲンで歯を支える骨の吸収程度を確認して進行度を評価したうえで、歯石取りやクリーニング、歯周外科手術、重度歯周病の歯を抜歯するなどして治療します。そして、治療後も定期的に歯科医院で検診やクリーニングを受けることが重要です。

歯周病の簡単なセルフチェック項目として、ブラッシング時の歯肉からの出血、歯の動揺、口臭、歯茎の腫れなどが挙げられます。当てはまる項目が一つでもある方は、ぜひ一度歯科医院で歯周病の検査を受けることをお勧めします。また、糖尿病のある方もない方も、一度ご自身の口腔状態を見直してみましょう。

 

2月

市立病院 臨床検査科 松原直樹 医師

臨床検査とISO15189

病院で採血や検尿をしたことがありますか?
頭が痛かったり、熱っぽくて体がだるかったり…、これらはすべて体が発する危険信号です。こうした症状で病院に受診すると、医師は問診や聴診など診察時に得られた情報から、更に原因を探るため、血液や尿を調べます。これが臨床検査です。

臨床検査には、患者さんから採取した血液や尿、細胞などを調べる「検体検査」と、心電図や脳波など患者さんを直接調べる「生理機能検査」があります。検査を実施することで、症状の原因やどの病気かを調べたり、診断の確認や病気の進行度合い、投薬による副作用、治療効果の判定を行ったりします。こうした検査業務には臨床検査技師が携わりますが、得られた検査結果の疑問などを解決したり、検査全般を管理したりするのは臨床検査医です。医師として信頼できる検査結果が提供できるように採取した検体の取り扱いや、測定機器の状態を管理(精度管理)します。

当検査室では、更なる検査精度・サービスの向上を目指し、2019年2月19日に国際規格であるISO15189の認定を取得しました。ISO15189は、国際標準機構(ISO)による臨床検査室の品質管理に特化した国際規格です。臨床検査技師の技術能力、検査の精密・正確さ、検査所要時間、医師・患者さんへの対応を審査して認定されました。また、5月には検査機器、検査システムの更新を行い、これにより大幅な患者さんの待ち時間短縮に繋がりました。

今後も臨床検査技師と協力し、臨床検査医として検査精度と品質管理の維持向上を図り、良質な医療を地域住民の皆さんに提供できるよう努めていきます。検査についてご質問などがあれば気軽にお声掛けください。

 

3月

市立病院 麻酔科 岩澤健 医師

麻酔科医と救急救命士の意外なつながり

少し物騒な話なのですが、実は麻酔科医が手術のために全身麻酔をかける際、患者さんを眠らせるのと同時にかなりの確率で患者さん自身の呼吸を「意図的に」停止させます。もちろん呼吸は止まったままにはせず、即座に麻酔科医が呼吸の代行を開始し、手術終了まで徹底した管理を行います。普通に生活している状態で突然呼吸が止まった場合、5分程度で脳が取り返しのつかない損傷を受けはじめるとされています。それでも全身麻酔で「意図的に」患者さん自身の呼吸を停止させるのにはさまざまな理由がありますが、その方が安全な場合が多いのです。

一方、病院の外で発生した重症の傷病者では「意図しない」呼吸停止が起こり得ます。このような場合、多くは救急救命士が現場に到着してから専門的な処置が開始されることとなります。脳を守るためには時間の余裕がありませんから、呼吸が停止している場合は心臓マッサージと同時に救急救命士がすぐさま酸素を「有効に」患者さんの肺に届けなくてはなりません。この「有効」というのが実は奥が深く、実際の人体に触れ多くの経験を積む必要があります。

市立病院では、救急救命士が実際に全身麻酔で呼吸が停止した患者さんの呼吸を管理する実習を受け入れています。危険が無いように、必ず麻酔科専門医がつきっきりで指導します。本実習で管理に習熟した救急救命士が現在も現場で活躍し、重症の傷病者において救命率を高めています。実習には患者さんの同意が不可欠ですが、救急医療を向上させるため、ご協力をいただけましたら幸いです。

 

4月

市立病院 総合内科 坂本広登 医師

いざという時のために今出来ること ~災害医療について~

「Jアラート(全国瞬時警報システム)」はご存じでしょうか。そう、携帯電話やテレビから時々聞こえるあの強烈な効果音、「地震です」「台風です」といったテロップが流れるあの情報システムのことです。ここ最近、地震や台風といった災害が増えていますが、もし、暮らしている地域に巨大地震が起きたら、台風が直撃して川が氾濫したら、皆さまはどのように対応しますか。

完璧な事前準備は難しいですが、家具の置き方や非常用持ち出しバッグの準備、避難場所・経路の確認、安否確認の方法など今の時点で確認できることはたくさんあります(首相官邸ホームページ参照)。特に、非常用持ち出しバッグの用意と避難場所の確認は、今すぐにでも必ず行っていただきたいことです。

当地域の南海トラフ地震による被害は震度6前後と想定されていますが、「まだ起きないだろう」という思いが多々あると思います。実際に食料・水がなくなったら、家が壊れトイレが使えなくなったら、けがをしてしまったら、などの場面を具体的に想像し、必要な物、情報をそろえていただき、被災したときの不安が一つでも軽減できるように考えていただければと思います。

飯田市立病院は災害拠点病院としての役割も持っており、災害時には、限られた資源で多くの皆さまに適切な医療を提供できるように努めています。令和元年台風19号の際、早い段階から現地で災害支援活動を開始したのが当院のDMAT(災害医療支援チーム)です。私も第一陣として被災現場に入り、医療支援を行いました。これからも地域の皆さまと情報を共有し、災害に立ち向かえる準備ができればと切に願う日々です。

 

5月

市立病院 循環器内科 平林正男 医師

心不全パンデミック!?

「心不全」という病名を聞くことが多いかと思いますが、そもそも「心不全」とは何でしょうか。文字通りだと、「心臓が機能不全に陥っている状態」となり、定義では「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、命を縮める病気」とされています。心臓は拡張し心臓内に血液を貯め、収縮することで血液を全身に送り出す、というポンプのような機能を持ちます。心不全はこのポンプの機能に何らかの障害ができてしまい、体内の主要臓器に十分な血液を供給できなくなってしまうため、様々な症状が出現してくる状態をいいます。血液の全身の循環障害の結果、全身に水分がたまってしまい、息切れ・むくみ・体重増加を呈します。仰向けで寝ると苦しくなるので、机にもたれたり背中にクッションを入れると楽になって寝られるということもあります。また、臓器への血流供給が不良となり、腎臓への影響として尿量低下、筋肉への影響としてだるさ・疲れやすさ、脳への影響として不眠・失神、消化管への影響として食欲低下などがあります。

心不全の原因として、虚血性心疾患(急性心筋梗塞を代表とする冠動脈疾患)、弁膜症、不整脈、などの「いかにも」心臓の病気が挙げられます。一方で、高血圧、糖尿病、肥満などの一般的な内科疾患も原因となり、また日常生活での習慣が病状に大きく影響します。塩分・水分制限の不徹底、薬の服薬不徹底、通院が不定期、喫煙、などが心不全の増悪要因としてよく指摘されます。今後心不全患者の増加が予測され、「心不全パンデミック」がやってくるともいわれています。御家族、周囲の方々、医療従事者と協力して日頃から心不全増悪の予防に努めていくことが大切になります。心不全パンデミック!?

 

6月

市立病院 腎臓内科 森 雅博 医師

慢性腎臓病について

慢性腎臓病は腎障害や腎機能の低下が持続する疾患のことであり、この疾患が進行すると末期腎不全に至り、腎代替療法(透析療法や腎移植術)が必要となります。わが国の慢性透析患者数は2018年末で約34万人と増加し続けています。また日本人の慢性腎臓病患者数は約1330万人と推計され、成人の約8人に1人は慢性腎臓病であるといわれています。自覚症状が少ないため、気が付かないまま症状が進んでしまうことが多く、進行すると心筋梗塞や脳卒中、心不全などのリスクを上昇させることがわかっています。血液・尿検査で診断が可能であり、健康診断や医療機関での検査によって早期に診断し、早期に適切な治療を行うことは重症化を抑制でき、腎臓を守るだけでなく心臓病や脳卒中の予防にもつながります。

もし慢性腎臓病と診断された場合には、腎臓の働きをこれ以上悪くしない治療が基本となります。進行してしまうと、失われた機能を取り戻すことが難しくなります。慢性腎臓病の発症は、加齢に伴う腎機能低下や生活習慣病が深く関わっています。治療の中心は、まずはかかりつけ医になり、原因疾患や症状に応じて専門医療機関と連携して加療していくこととなります。その場合、生活習慣の改善、症状に応じた食事療法(減塩、たんぱく質制限など)、薬物療法(血圧、血糖、脂質の治療など)の集学的治療が必要となります。さらに慢性腎臓病が進行してしまった場合は、腎代替療法といった治療が必要となります。腎臓のことは一人で悩まず、医師、看護師、栄養士や家族としっかり相談しながら、日常生活で上手に治療を取り組んでいきましょう。

 

7月

市立病院 消化器内科 栗林 直矢 医師

令和時代の肝臓病・脂肪肝について

「肝臓の病気」と言われると、どのような病気を思い浮かべるでしょうか?一昔前は、B型肝炎やC型肝炎と言ったウイルス性肝炎が社会的な問題となっていました。ところが、医学の進歩によりこれらの肝炎に対して、ウイルスの増殖を抑えたり、ウイルスを排除したりする治療ができる時代になりました。一方で、飽食の時代となり、増えているのが脂肪肝です。脂肪肝は、いわゆる生活習慣病によって起こる肝臓に脂肪が溜まった状態です。以前は、お酒をよく飲む人が脂肪肝になりやすいと言われていました。

ところが、最近では、お酒を飲まないのに脂肪肝になる非アルコール性脂肪肝症候群(NAFLD)の人が増えています。特に自覚症状がない病気であり、健診での血液検査や超音波検査などで偶然に見つかることが多いです。肝臓に脂肪が溜まってすぐに何かが起きるということはありませんが、長期的に蓄積していると、炎症が起きて徐々に肝臓の機能が低下していき、最終的には肝硬変、肝臓癌に至る可能性があります。

脂肪肝に対しては、残念ながら、現在でも効果的な治療薬は開発されておらず、日々の食生活や運動習慣などで徐々に改善していくしかない病気です。お酒を飲む人は、量を減らす、休肝日をつくると言うのも効果的です。また、肝臓は『沈黙の臓器』とも言われており、何かしらの自覚症状が出たときにはすでに相当肝臓が痛んでいる状態のことが多いです。アルコールの過剰摂取や食生活の乱れを避け、適度な運動習慣を持つことが肝臓をいたわる上で最も重要になってきます。