現代版養生訓

2025年の現代版養生訓

1月

飯田市立病院 名誉院長
飯田市立高松診療所長
堀米 直人 医師

「上手な医療のかかり方」とは?

「上手な医療のかかり方」の1つ目は、身近な「かかりつけ医」を持つことです。
かかりつけ医は地域の医院・診療所・クリニックなど身近に居て、訴えをよく聞き病気の状態を判断し、自院で治療が可能である時は治療を行います。
しかし専門的で高度な医療が必要と判断した時は、紹介受診重点医療機関をはじめとする、設備とスタッフの揃った地域の病院などに紹介し、必要な検査や治療を早くスムーズに受けられるように調整します。
2つ目は2人主治医制。紹介先の病院で治療が終わり、安定した後のケアはかかりつけ医、定期検査や追加治療が必要な時は病院主治医が担当するという2人の主治医の役割分担で健康な暮らしを続けましょう。
3つ目。急な病気や体調不良の時はすぐにでも医療機関にかかりたいものです。
この頃は「救急医療がひっ迫していることからコンビニ受診は控えましょう。」とまで言われていますが、一刻を争う状態の時はためらわずに救急車を呼ぶのがよいと思います。
しかし、救急車を呼ぶか自分で受診するか迷ったり、かかりつけ医に相談する時間がない時は、飯田市休日夜間急患診療所をご利用いただくか

●大人の急な病気やケガは
長野県救急安心センター #7119

●子供の病気やケガの時は
子ども医療電話相談 #8000

に電話相談をしてアドバイスを受けることをお勧めします。
以上、身近で病気に関することを何でも相談できて、専門の医師・医療機関を紹介してくれる頼りになるかかりつけ医や電話相談は、上手な医療のかかり方のポイントです。

(参考)長野県医療政策課版 上手な医療のかかり方Book

 

2月

市立病院 形成外科 渡辺 勇太 医師

甘く見てはいけない 低温やけど

低温やけどをご存知ですか?その名称から、通常のやけどより軽いものだと思われる方もいるでしょうか。甘く見てはいけません。
低温やけどとは、低めの温度(44~50℃程度)に長時間(5分~6時間)さらされて起こるやけどのことです。44~50℃というのは短時間なら心地よく感じてしまう温度なので、初期はやけどを負っていることに気づきにくく、気づいたときには皮膚の深くまで損傷しているというケースが多いという、名前からは想像しにくい怖いやけどです。
しかし、その危険性を理解しておけば基本的に防げるものですので、まずはどんなところにリスクがあるのかを理解して予防に努めましょう。特に今の季節低温やけどを起こしやすいものとして、こたつ、湯たんぽ、電気毛布、カイロなどがあります。こたつに長時間入ったまま過ごさない、湯たんぽは就寝時には寝具から出す、電気毛布は電源を切ってから寝る、カイロは肌に直接触れないようにする、などの注意を怠ってはいけません。また、意外かもしれませんがスマートフォンやモバイルバッテリー、ノートパソコンなども原因となります。スマートフォン(特に充電中)を使用したまま寝たり、パソコンを膝などの上で長時間使用しないよう気をつけましょう。
はじめの症状は皮膚の赤みやヒリヒリ感など軽く見えても、時間の経過とともに皮膚がただれたり、壊死してくる場合があります。初期症状だけで重症度を判断することは非常に難しいものです。
低温やけどかな?と思うような心当たりがあれば、その時点の症状の程度に関わらず、通常のやけどと同じくすぐに患部を流水で20分程度冷やしてから、すぐに病院を受診してください。

 

3月

市立病院 整形外科 林 幸治 医師

人生100年時代をどう生きる?

2025年1月現在、飯田市の65歳以上の老年人口比率(65歳以上)は35%(日本平均30%)です。更に高齢化に加え平均寿命も伸び、2025年現在、男性82歳、女性87歳です、これが100年時代といわれる由縁です。数字だけみれば万々歳で、自由にシニア世代(65歳以上の世代)を謳歌できると喜んでいいでしょうか。
皆さん、薄々気付いていると思いますが、この平均寿命の中には、寝たきりまたは介護が必要になっている期間が含まれます。ここで健康寿命(介護なく一人で生活できる年齢)があり、男性72歳、女性75歳です。この開き、男性10年、女性12年は自分一人では生きていけない期間となります。このある意味厳しい100年時代を皆さんはどう生き抜きますか。
寝たきり原因のトップは、整形疾患(骨折、転倒、関節疾患)で約23%に上ります。次は、脳血管障害(脳梗塞、出血)18.5%、認知症15.8%と続きます。

結論、100年時代を生き抜くには、寝たきりを防ぐ事、それは整形疾患を予防することが重要です。そのkeywordの1つが腰曲がりです。ご高齢になれば皆さん腰が曲がりますよね、これは普通の事なのでしょうか。いやいや、私はそうは思いません。腰曲がりは寝たきりへの警告信号、初めはちょっとした腰痛から、日々の悪い姿勢から、運動不足、更に骨粗鬆症も加わり圧迫骨折や脊柱管狭窄症発症によるものまで多岐にわたります。もちろん、加齢による原因も大きいですが、日々の生活で維持されているシニア世代も沢山おられます。
100年時代を生き抜くため、若い時から準備は始まっています。早期予防(適度な運動、骨粗鬆症の加療)から外科的治療まで微力ながら腰曲がり対策に協力させていただきます。
寝たきりを予防して人生100年時代を楽しく生き抜きましょう!!

 

4月

市立病院 小児科 伊藤 かおり 医師

川崎病ってどんな病気?

川崎病は、小児期(主に乳幼児期)のみに起こる病気です。急な発熱で始まることが多く、両方の目の充血、唇や舌が赤くなる、体の発疹(BCG痕が赤く腫れる)、手足が赤く腫れる、首のリンパ節が腫れる、という6つの主要な症状のうち5つ以上、または冠動脈病変が確認された場合や他の疾患が否定された場合に「川崎病」と診断されます。
冠動脈とは大動脈の付け根の近くから心臓を取り巻くように出ている血管で、心臓自身に血液を送ります。心臓が休みなく動き続けるために、なくてはならない血管です。川崎病で無治療の場合には3から4人
に1人の割合でおよそ9から10日目以降から冠動脈病変を合併してしまうため、それを防止するために入院して治療を行います。治療をすればこのような心臓合併症を起こすことはほとんどなく、将来にわたって生活や運動の制限はありません。
近年少子化は言われていますが、川崎病の罹患率は年々増加を認めます。1970年以降2年ごとに川崎病全国調査が実施されており、この調査結果によると就学するまでには約50人に1人以上、つまり1から2クラスに1人以上は川崎病に罹患するということになります。
川崎病の原因はさまざまな説が論じられていますが、いまだ解明されていません。何らかの感染症が背景にあるという考え方が一般的で、それを裏付けるかのようにコロナ禍では感染予防策の徹底により感染症の流行自体が減少し、2020から2022年の川崎病患者数も一時的に減少がみられましたが、コロナ禍が明けてからは患者数がまた増加したことを日々の診療で感じております。
川崎病の症状は数日から10日かけてそろってくるため、最初の数日では診断できないことがよくあります。ご心配な点がありましたらまずはかかりつけ医にご相談ください。

 

5月

市立病院 皮膚科 上條 史尚 医師

アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎とは、良くなったり悪くなったりをくり返す、かゆみのある湿疹を主な症状とする皮膚の病気です。湿疹とは、皮膚の表層に起こる炎症の総称で、皮膚炎とも呼ばれます。
アトピー性皮膚炎の原因は最近の研究で、「皮膚バリア機能異常」と、免疫の異常によって起こる「アレルギー炎症」「かゆみ」の3つの要素が互いに関連しながら発症することがわかってきました。そのため、治療
も三位一体で考えていくことが重要となってきました。
アトピー性皮膚炎の治療の基本は症状に応じて「薬での治療」「スキンケア」「悪化させる原因の対策」の3つを組み合わせた治療です。
最終目標は、あまり薬を使用することなく日常生活を送れるようになることです。
一般的に、アトピー性皮膚炎の治療では、ステロイド外用薬で炎症を抑え、保湿外用剤で皮膚のバリア機能の低下を防ぐという組み合わせが基本となり、補助療法として抗ヒスタミン薬(一般的なかゆみ止め内服
薬)が使用されています。
ほとんどの方はこれでコントロールできるのですが、一部の中等症から重症の患者さんの中には、このような従来の薬では症状がなかなかコントロールできない方がいらっしゃいます。
そのような患者さんの新しい選択肢として、近年、注射薬などこれまでとは異なる作用機序をもつ新しいタイプの薬が続々と登場しています。ただし、使用できる基準があり、高額な薬剤でもあります。
今まで受けている治療で十分な効果が得られない、毎日かゆくてつらいという患者さんは、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。

 

6月

市立病院 泌尿器科 中藤 亮 医師

前立腺肥大症

前立腺は男性に特有の臓器で精液の主な成分である前立腺液を分泌します。前立腺は膀胱の出口の部分で尿道を取り巻くようにあり、加齢に伴って大きくなります。尿道を圧迫するようになると尿の通り道が狭くなり、排尿の症状を引き起こします。これが前立腺肥大症です。
代表的な症状として、尿の勢いが悪くなり出るのに時間がかかるようになります。排尿しても膀胱に尿が残るようになり(残尿)、進行すると膀胱がいっぱいでも尿が出せない状態(尿閉)になります。尿閉が長期に続くと腎臓の機能が低下してしまい生命にかかわる事態にもなります。
前立腺肥大症の治療として、まずは薬物療法があります。排尿の時に前立腺の部分の筋肉を緩めて尿が勢いよく出るようにするお薬や、男性ホルモンの働きを抑えて前立腺を大きくしないようにするお薬、漢方薬などがあります。
残尿が多い場合や、尿が出なくなってカテーテル(排尿のための管)が必要な場合は手術治療を行うこともあります。手術は前立腺がある程度以上の大きさで、膀胱の機能が保たれている人が対象になります。
標準的な手術方法として尿道から細い内視鏡を入れて前立腺を少しずつ切り出す前立腺切除術があります。出血や手術時間などの負担があり、心臓や肺の機能などに問題のある方はできません。体の負担が少ない手術方法として、前立腺に水蒸気を注入して小さくさせる前立腺水蒸気治療があり、昨年から飯田市立病院でも行えるようになりました。尿道の広がり具合は切除する手術よりも小さくなりますが、手術時間や出血量を大幅に少なくすることができます。