現代版養生訓

2022年の現代版養生訓

1月

市立病院 麻酔科 久米 文子 医師

手術前禁煙のすすめ

喫煙は、以前からがんや脳卒中、糖尿病の原因となることが知られています。それだけではなく、さまざまな要因で術後の経過に悪い影響を与えることも知られています。それでは、どのような悪い影響があるのでしょうか。

まず、傷の大小に関わらず、その治りが顕著に悪くなります。そして、喫煙していない人と比べ、術後に心筋梗塞、脳卒中、肺炎をはじめとする感染症を起こすリスクが高まります。さらに、喫煙者は術後痛が強く、鎮痛薬の必要量が多くなります。加えて、術後痛が長引き、慢性の痛みへ移行するリスクも高いといわれています。また、受動喫煙の副流煙によっても、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが高くなることも知られています。

それでは、喫煙している人は、強い痛みや傷の治りが悪いのを我慢して、心筋梗塞などに怯えながら術後を過ごさなければならないのでしょうか。実は、対処方法が一つあります。「禁煙」です。禁煙することで、これらの悪い影響を減らすことができます。WHO(世界保健機関)は、令和2年に「4週間の禁煙後は、その期間が1週間延びるごとに術後の合併症が19%減少する」と発表しました。

手術前の禁煙は4週間以上、長ければ長いほど良いですが、短くても効果はあります。2〜3日で痰の排出が良くなり、1〜2週間で痰の量が減ります。また、3週間で傷の治りが正常に近づきます。

手術が決まったら、その日から禁煙しましょう。もちろん、ご家族の方も一緒に。そして、これをきっかけに喫煙を止めてしまいませんか。

 

2月

市立病院 緩和ケア内科 山田 武志 医師

「人生会議」

もしものときに備え、自分が望んでいること、どのような治療やケアを受けたいかを、自分自身で考え、信頼する人たちと話し合うことを「人生会議」といいます(「アドバンス・ケア・プランニング」ともいいます) 11月30日が「いい看取り」で人生会議の日となっていますが、どちらもまだまだ知名度が低く、これから皆さんに知っていただくという段階です。

人生の最終段階では7割以上の方が、自分の意思を表明できなくなっているといわれています。そのようなときに、今まではご家族に「どうしたいですか?」と医療者は問いかけていました。いくら家族といえども、最後のときを決めるのは、どうしても後味の悪さが残ってしまいます。そのとき、「父(母)はこう言っていました。」と医療者に伝えることができれば、家族の負担はグッと軽くなるのではないでしょうか。

死ぬときの話というと重苦しく感じられるかもしれませんが、「どう死にたいか」を話すのではなく、「どう生きたいか」「自分が何を大切に思っているか」「これだけはやっておきたいこと」などを話す、そういう 場だと思ってください。

実際には、これまでそんなことは話したことがないという方がほとんどかもしれません。ただ、ある程度の年齢になれば、自分の中では考えたことはあるのではないでしょうか。その考えたことを、うまく文章にできなくても、口に出してみることで改めて見つめ直す機会になります。子どもたちやきょうだいからの意見を聞くと、自分だけで考えていたこととはまた別の新しい考えが思い浮かぶかもしれません。

自分のためにも大切なことですが、家族のためにも人生会議をしてみませんか。

 

3月

市立病院 総合内科 塚田 恵 医師

睡眠のすすめ

睡眠は食事や運動と並んで健康を支える大切な要素のひとつです。睡眠中は、ただ体を休めるだけではなく、心身の修復や記憶の整理をしています。しっかり眠ることで治ってしまう体の不調もたくさんあります。逆に睡眠不足は、自律神経系、内分泌系、代謝系へ複雑な影響を及ぼし、糖尿病など生活習慣病のリスクを高めると考えられています。

例えば、ごく短期間の睡眠不足でも耐糖能(血糖値を正常に保つためのブドウ糖の処理能力)が低下することが明らかになっています。健常な成人でもたった一晩、睡眠時間を短縮(平均7時間34分から3時間46分に)しただけで、血糖を下げるホルモンであるインスリンの効きやすさが約20%低下します。長く続けば糖尿病が悪化してしまう可能性があるということですね。

また、睡眠不足のときには食欲が増してしまうそうです。4時間睡眠を2日間続けると、10時間睡眠の時に比べて食欲を増進させるグレリンという物質の血中濃度が約3割増加し、食欲を抑えるレプチンの血中濃度は約2割低下します。なお、生理的に必要な睡眠時間は個人差が大きいので、睡眠時間が10時間必要という意味ではありませんのでご注意ください。

また、睡眠不足では免疫細胞の一種であるNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が低下し、病原体を排除する抗体を作るT細胞の働きを助けるIL-2(インターロイキン2)の産生も抑制されて免疫力の低下を招きます。コロナ禍では大問題ですね。

ついついスマホなどをいじってしまうなど、寝るのが夜遅くなってしまうこともありますが、気を付けたいですね。

 

4月

市立病院 消化器内科 南澤 昌郁 医師

胃検診方法について

胃の検査でバリウム検査か、胃カメラか、どちらを受けようか迷ってしまった、という経験がある方は少なくないと思います。2つの検査の特徴や長所短所をご紹介します。

胃バリウム検査は造影剤(バリウム)を飲みこみ、胃の内側にへばりついたバリウムをレントゲンで写して病気があるかを調べる検査です。費用が安く済み、一般的には胃カメラより楽という点が長所です。一方で短所として、胃液の多い方ではバリウムがへばりつかず病気を見つけにくい、小さな病気が写りにくいといった点が挙げられます。

胃カメラは、細長いカメラを喉から入れて胃の中を直接見る検査です。病気の色や形が分かり、病気の一部を採取できることが長所です。また、バリウムよりもがんの発見率は高いといわれています。短所は一般的に検査がつらいということはありますが、最近では鼻から入れるタイプの胃カメラで楽に検査できるようになったほか、鎮静剤で眠っている間に検査する医療機関もあります。各医療機関に問い合わせてみると良いでしょう。

どちらの検査を行えば良いかというと、結局、決まった答えはありません。個人的な考えですが「胃の検査を安く済ませたい」「何も症状がない」「40歳未満」という患者さんは胃バリウム検査を、「胃がんになった親族がいる」「何か症状(腹痛、食欲不振など)がある」「ピロリ菌がいるといわれたことがある (もしくは除菌したことがある)」「40歳以上でカメラを受けたことがない」という方は、胃カメラを受けることをお勧めします。

どちらの検査も一長一短ですが、検査をしなければ胃がんを見つけることもできません。定期的な検査を受け、万が一、胃がんができてしまったとしても、早期発見・早期治療できるように心掛けましょう。

 

5月

市立病院 循環器内科 毛涯 秀一 医師

最近胸が重いなぁ… それ、狭心症かもしれません

「狭心症」とは、心臓の栄養血管(冠動脈)の血流が悪くなり、心筋に酸素や栄養が行きにくくなったことで胸に症状が生じる病気です。血流が悪くなる原因はいくつかありますが、主には、動脈硬化の進行によって冠動脈内にプラーク(油かす)がたまり、血流を阻害することで生じます。典型的な狭心症の経過として、まずは、普段の家事や運動、仕事中に時折10分~15分程度、胸に痛み、圧迫感などの違和感があります。そして安静にしていると軽快していたものが、徐々に違和感を持つ頻度が増し、持続時間も長くなるという症状が出現してきます。冠動脈の血流障害が進行し、血流が完全になくなると、急性心筋梗塞という重篤な病気を発症します。心筋への血流が良くなることにより、心筋が急速に壊死していき、心機能が急激に落ちたり、最悪の場合そのまま死亡したりします。

狭心症の治療としては、薬物療法やカテーテル治療(狭くなった箇所を風船やステントで広げる)があります。現在は薬物治療がカテーテル治療と遜色ないほど非常に優秀になっていますが、症状が残ったり、強かったりする場合はカテーテル治療の方が有効です。また心筋梗塞の場合は一刻を争うので、緊急でのカテーテル治療またはバイパス手術が必要となります。

狭心症や心筋梗塞の大本の原因は主に動脈硬化であり、動脈硬化進行予防が重要です。高血圧や糖尿病、脂質異常症は動脈硬化を進行させるリスクとなります。すでに内服治療を受けている方は内服を続けていただき、まだ指摘されていない方も普段の食生活に対する見直し(減塩など)や運動習慣をつくるなど、発症の予防に努めましょう。

 

6月

市立病院 腎臓内科 森 雅博 医師

健診で腎臓に異常値が出たら放置厳禁

人生100年時代といわれますが、健康長寿の実現のために「腎臓」の健康を保つことは欠かせません。腎臓は、よほど悪くならない限り悲鳴を上げない「沈黙の臓器」と呼ばれ、腎臓の異変を症状からキャッチすることは難しいです。

そんな腎臓の異常を察知するのに非常に優れた情報源が「尿」です。尿検査は健康診断に必ず組み込まれている検査です。血液中の老廃物は、腎臓でフィルターのような役割を担う組織「糸球体」でろ過されます。分子が大きいタンパク質はこの糸球体をすり抜けることはないのですが、糸球体が傷つくと大量のタンパク質が尿に漏れ出てしまいます。それが「蛋白尿」です。健康な人でもごくわずかなタンパク質が尿に出ていますが、検査陽性になるような蛋白尿はまず出ません。蛋白尿は腎臓の傷害を示す、極めて重要なサインです。尿蛋白を放っておくと人工透析が必要な「末期腎不全」となるリスクが高くなっていってしまいます。

ほかに健康診断で腎臓の異変を調べる血液検査に「血清クレアチニン」があります。これは筋肉の老廃物のような物質で、腎臓でろ過されて尿とともに排出されますが、腎臓のろ過機能が落ちるとクレアチニンが血液中に残ってしまい、この血清クレアチニンの値が高くなれば、腎機能が落ちたことが疑われます。血清クレアチニンが基準値を超えても、すぐに急上昇するとは限りません。じわじわと上昇するクレアチニンの値を見過ごしてしまうと、腎臓はある日突然、力尽きてしまいます。健診で異常値が出たら放置は禁物です。

知らない間に「元に戻れない点」を過ぎてしまわないよう、早めに手を打つことが大切です。健診で異常が出た場合は早めにかかりつけ医に相談しましょう。

 

7月

市立病院 脳神経内科 桃井 浩樹 医師

高齢者のてんかん

「てんかん」は、脳にある神経細胞の異常な電気活動によって、けいれんをはじめとし、多彩な発作を繰り返し起こす疾患です。てんかんの患者さんは、日本では人口1000人当たり4〜8人いるとされ、全国で60〜100万人いるとされています。

発症のピークは小児期と65以上の高齢期です。高齢者の100人に1人がてんかんを持つといわれ、けっして少なくない人数です。

高齢者のてんかんは、脳卒中が原因に挙げられます。高齢期に入ると、脳卒中になる方の数が増え、その後遺症としてのてんかんも増加していきます。また、認知症の方は、認知症がない場合と比べ、てんかんを合併する可能性が2倍になります。

高齢者に見られる発作として、全身のけいれんがあり、その発症は4割程度です。また、もう一つの多い発作は、意識低下です。意識が低下する発作は発症時間が短く、周囲に気付かれないことがあります。よく見ると、一点を見つめたまま動作が停止する、手をモゾモゾ動かす、口をモグモグ動かす、舌や唇をクチャクチャ鳴らすなどの動きが見られることがあります。繰り返す意識低下の発作が認知症と間違えられることがあるため注意が必要です。

多くの高齢者のてんかんには薬がよく効き、予後が良いことが多いです。ところが、けいれん後意識障害が続き、そのままADL(日常生活動作)が低下し、認知機能低下が進行することも少なくありません。前述のような症状を周りの方が見掛けたら、てんかんの可能性もありますので、一度ご相談ください。

 

8月

市立病院 糖尿病代謝内科 小林 睦博 医師

検診や人間ドックを定期的に受けましょう

皆さん、検診を定期的に受けていますか?
検診を受けることでさまざまな病気を早期に発見することができます。

早期に発見できれば、早期に治療が始められ、悪化を防ぐことができ、痛い思いや苦しい思いをしないで済みます。金銭的にも、重症化してから治療を始めるよりも早期に治療を始めた方が費用は少なく済みます。

病気によっては自覚症状なく進行してしまう病気もあります。そういう病気の場合は検査を受けないと早期に発見できません。知らない間に病気は徐々に進行し、合併症が出てきて初めて気が付くと、早期に発見できていれば起こっていなかったはずの合併症に悩まされることになります。

糖尿病や腎臓の病気はまさにそういう病気です。糖尿病では、網膜症などの目の病気、ネフローゼ症候群などの腎臓の病気、足先の痺れなど神経の病気も起こします。腎臓の病気では、足がむくむ、食欲がないなどの症状が出るとそれはかなり進行した状態です。

これらは特定健診を受ければ早期に発見できます。特定健診は、メタボ検診とも言われますが、メタボを改善すると動脈硬化疾患の予防になると証明されています。ぜひ受けて、体調管理に生かしてください。

がん検診も受けましょう。がんも初期には自覚症状がないので、早期発見にはがん検診です。胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がん、肺がん検診を自治体が行っています。それ以外のがん、例えば膵臓がんが心配なら、腹部超音波検査を受ける必要があります。

人間ドックでは、これらの検査が一度に受けられるので、毎年〜数年に1回は受けることをお勧めします。

 

9月

市立病院 消化器外科 福留 惟行 医師

がんについて

日本人の二人に一人は「がん」になり、今や三人に一人は「がん」で亡くなる時代になりました。そのような中で最近は、特に「大腸がん」になる方が増えており、今回はその大腸がんについてお話します。

女性の14人に1人、男性の11人に1人が、一生のうちに大腸がんと診断されています。また、女性では、がんによる死亡数の第1位が大腸がんとなりました。

大腸がんの症状は「便に血が混じる・便が細い・便が残る感じがする・お腹が張る」などがありますが、これらはがんが進行した段階での症状であり、初期の段階では自覚症状はほとんどありません。

そこで重要なのががん検診です。ご自分の便を取って便潜血検査を受けるという簡単な検診で、大腸がんの死亡率は60〜80%下がると言われています。

大腸がんの治療は主に手術によるがんの切除ですが、現在は「腹腔鏡手術」が可能な場合が多く、大きくお腹を大きく切ることなく手術ができるので体への負担が少なく約10〜14日程度で自宅へ退院できます。

腹腔鏡手術とは、腹部に1cm程度の穴を5〜6カ所あけて、細いカメラとはさみなどの手術道具を挿入して行う手術で、カメラの拡大視効果によって、丁寧で、安全な手術が可能です。私は今年から飯田市立病院で勤務しており、この腹腔鏡手術を専門としていますので、今後さらにこの分野に力を入れてまいります。

最後に、大腸がんは、初期であれば90 %以上が完治します。皆さんにはぜひ検診を毎年1回受けていただくことをお勧めします。